トレーディング・シティの目指すもの

開発において複数の地点を同時に扱い、各々が有する価値の「トレード」=交換を行い、互いがwin-win の関係になる開発の在り方を模索する。このとき、「貨幣」価値のみによる比較ではなく、例えば「環境」、「文化」、「社会」、「インフラ」、「クリエイティビティ」など、場所に固有な価値=「使用価値」を最大化するトレードを重視する。

トレーディング・シティの5 原則

①既存の都市を扱う

白地図に新たな都市を描くための方法論ではなく、「トレード」によって都市の流動化を再び高め、既存の都市環境を改良し、様々な社会問題の解決していくための手法・アイデアである。

②最適再配置を行う

以前はある場所に必要であったモノが、不適合化していることが多い。しかし、それは別の場所で必要とされている可能性がある。それらを「トレード」することで、モノが最適な場所に再配置された都市に導く。

③価値を発掘する

資本主義のもと、都市の魅力が貨幣価値に換算され、消費されてきた。結果、平均化された都市だらけになってしまった。これからの新たな都市の魅力は貨幣価値ではない別の価値によって見出されるべきである。

④外部価値をもつ

トレードの根本はまず、各々が得をすることである。しかし個別のトレードの束が都市全体にとって良い影響を与えるかどうかは疑問である。互いがwin-winなだけではなく、その周辺にもその良い効果を及ぼす「トレード」のしくみがなくてはならない。

⑤ボトムアップ性を持つ

マスタープランとしての都市計画に紐づいて実行される開発は、実行までに長い時間がかかり、切迫した場所の要請に応えづらい。「トレード」は、局所的・即時的に行われ、ボトムアップ的に都市を変質させていこうとする運動である。連鎖性や別時多発性もあり、柔軟に都市を変えていく動力となる。

トレーディング・シティを考えるための補助線

トレーディング・シティの具体的な姿を模索するために、これまで述べたことを簡単に図示してみよう。

横軸は価値の種類を示している。金銭価値=交換価値による取引を左側に、固有の価値=交換価値による取引を右側に配置している。これは、トレードに参加する主体が匿名的であるか固有の存在であるかという違いに等しい。一方、縦軸は公共性の有無である。5原則の④で述べたように、トレードの結果、その外側に良い影響があること、すなわち「公共性があること」がトレーディング・シティで重視するポイントである。

この縦軸と横軸の重なるところがトレーディング・シティの目指す領域である。つまり、「使用価値」によるトレードで、公共性を生み出すこと。この領域に至るには、「貨幣価値による売買ながら公共性を持つ事例」から接近することも考えられるし、「直接的な交換ではあるが主体同士の内側でとじてしまっているもの」から接近することも考えられるだろう。これら近接する既存の事例や研究・概念をレビューしながら、私たちの考えるトレーディング・シティの姿を提示していきたいと思う。