トレーディング・シティはそもそも都市における「空間と用途の最適再配置(マッチング)」手法のアイデアです。現在は、万人に共有された価値、つまり資本主義社会においては金銭価値にいったん変換されることによって私たちの欲望を満たす方向に空間と用途の組み合わせが動きます。しかし、金銭価値によるジャッジの過程で切り捨てられてしまう価値はたくさんあります。例えば歴史的な価値などはその分かりやすい例でしょう。そこで、「最適さ」について、共有の価値観にもとづくのではなく個別の価値観の差異、すなわち「最適さ」の差異を原動力として空間を動かそうというのがトレーディング・シティです。

価値観が違う者同士で起こるのが、交換(トレード)です。そう考えると、実はCOVID-19の流行によってトレーディング・シティのアイデアはより実効的になったと言うことが出来るかもしれません。というのも、まだ時々刻々と状況は変化しているので分からないことは多いのですが、COVID-19がもたらした大きなことの一つが、人々の「空間」に対する「価値観の変化」に見えるからです。

これまでも都心居住が良い、郊外居住が良い、という空間の価値観(好み)は様々でしたが、それの個人個人の感覚が大きく変化することはそうそうなかったと思います。それが、「満員電車で通勤するのはいやだからオフィスの近くに住みたい」「郊外や田舎居住でテレワーク中心の生活にしたい」「そもそも人口密度の低いところに住みたい」「動線のコントロールされた高級マンションに住みたい」といったふうに、各々の居所の移動を真剣に考えるレベルで価値観が揺さぶられています。そして、このような状況は、「空間と用途の新たなマッチング」を引き起こす、すなわちトレードが起こるポテンシャルが増大している状況と言うことが出来るでしょう。

あらゆる災害はそのような場所に対する価値観の変容を引き起こすのですが(例えば洪水後は低地に住みたくないとか)、今回のCOVID-19は全地域的にその変容が起こっているがゆえに、トレードがおきやすい状況になっていると言えるでしょう。もちろん、現実的・長期的に見れば貨幣価値ベースの不動産価値が需給のバランスの中で定まっていきそうですが、そうやって再び空間の価値が金銭化する「前」に即時的にトレードを起こしていけると面白いことになるのではないでしょうか。

ちょっとしたケーススタディ

そういった文脈でひとつケーススタディをあげてみます。 (都心の)オフィスと(郊外の)住宅の「トレード」です。「住宅地や田舎でリモートワークしたい」価値観と「都心のオフィス街に住んで職住近接で働きたい」価値観がマッチングします。空間的には、都心にある中小雑居ビルオフィステナントが住宅へとコンバージョンされ、一方で住宅地の住宅がリノベーションされてオフィスになります。

詳細なスキームの構築は改めて「提案」ページで示したいと思いますが、いずれにせよ、このトレードが実現していくと、最終的には都心のオフィスの半分ぐらいが住宅に、なんてことになるかもしれません。

都心ビルの半分くらいが住居に?