住み開きによる空き家での居場所づくり

 文京区では、社会福祉協議会が中心となって、社会的孤立を防ぐため、空き家等を活用した常設型の居場所づくりに取り組んできている。しかし、場所の確保や持続可能性などが課題になっている。都心部における空き家問題は、不動産市場が活発であるがゆえに、その社会的活用については、理解が進んでいない現状である。
このような背景を踏まえると、空き家・空きスペースを地域の居場所として活用することの社会的有用性を共有・普及し、実践を拡大していくことが時代に強く要請されている。その実践を実施にあたっては、オーナーが物件の近くもしくは同一建物に住みつつ建物の全部または一部を地域住民利用に開放し、多人数が使う「住み開き」が、「オーナーの地域貢献への熱い想いの具現化」と「遊休不動産の有効活用」を同時に実現でき、地域密着型の居場所づくりを可能とするのではないかと考える。

トヨタ財団しらべる助成を得て、文社協と協働

 本プロジェクトは、文京区社会福祉協議会とthe TRADING CITYがチームを組み、トヨタ財団の「しらべる助成」を取得し、現状把握と課題整理、居場所づくりのパイロット事業の調査・分析、オーナーニーズ調査を通し、「住み開き」による居場所づくりに関わる一連のプロセスの明確化および明示化を行ったものである。
また、この研究は、相続や家族事情といった極めてプライベートな要因故に現行の不動産価値ベースの取引が進まない空き家・空きスペースを、「地域ニーズとしての密接なサービス機会の向上」と「行政的ニーズとしての空間・財政的ゆとり確保」という異なる主体の「使用価値」によって福祉的空間等パブリックなものへと転換させる実践的研究であるとも言える。(結果的に「空き」と「公共施設的機能」がトレードされている)

ヒアリング調査等を通じたノウハウの構築

 まず初めに既存の居場所活動の分析を行い、そこからヒアリング調査項目を作成した。調査項目に基づき、既に居場所づくりに関わっているオーナー、関わろうとしているオーナー、関心があるオーナー15名にヒアリング調査を実施し、オーナーとしての不安感や不安の乗り越えたポイントを整理した。次に、空き家活用の法的な側面も含めた現状の課題を整理した。さらに、同時進行で行ったパイロット事業(千石三丁目プロジェクト)では、オーナーの負担や耐震補強工事の困難さ、実行委員会形式での乗り越え方、企業とのコラボレーションの可能性などを発見することができた。

 以上の調査・分析を基に、住民の交流の機会増進と社会的孤立の抑制に寄与する空き家や空きスペースを活用した「居場所」を創出するためのノウハウを整理した。また、財源確保として、自立的に居場所づくりを推進していくことのできる民間企業の CSRへの考え方を活かしたプロジェクトベースのファイナンスによる居場所づくりの仕組みと、成果連動型のソーシャル・インパクト・ボンドの仕組みを提案した。